落款とサイン、箱と紙、素材と技法、保存状態、いまの市場での動き。掛軸を一本お預かりすると、この5つを順に見ていきます。リサイクルショップバイキングで、美術品の査定を担当しているスタッフです。
「この掛軸、本物でしょうか」。蔵や床の間の整理でいただく質問ですが、本物か偽物かの二択で進めることはありません。作者が分からなくても、箱が無くても、拝見できます。
先に結論
サインの有無だけで判断はしません。落款の書かれ方、箱と紙に残った来歴、素材と時代の噛み合い、保存の様子、そのジャンルの動き。これらを合わせて、ようやくひとつの評価になります。判断が付かないものこそ、そのままお持ちください。
落款とサインから見ていく
掛軸や日本画では落款、油絵ではサインが最初の手がかりになります。見るのは、書かれているかどうかではなく、その書かれ方です。
文字の筆致。押されている位置。使われている印の形。そして、その作品が作られたとされる時代と、落款の書きぶりや印の摩耗の具合が噛み合っているかどうか。後から書き加えられたサインは、周囲の絵具や紙の劣化具合と足並みが揃わないことがあります。同じ作者の他の作品と並べて確かめることもあります。
逆に、有名な画家の名前が出てこないと分かった時点で話が終わるわけでもありません。工房で制作されたものや、古い時代に描かれた模写にも、記録として残る評価が付くことがあります。
「じゃあ、名前が読めないものは見てもらえないのでは」と思われるかもしれません。逆です。読めない落款を読むところからが仕事です。ルーペを当てて、印の欠けや滲みまで確かめます。時間はかかります。それでも、そこを飛ばすと先へ進めません。
箱と紙が語ること
本体と同じくらい見ているのが、付属品です。作者本人が箱書きをした共箱があると、その署名と作品の落款が噛み合うか、箱の傷み方が中身の年代と釣り合っているかまで一度に確かめられるので、そこから先に進める話が一気に増えます。たとう紙、識書、購入時の紙札、鑑定書。どれも作品の来歴をたどる材料になります。
ただし、鑑定書があれば無条件に話が進むわけでもありません。どこが発行したものか、いつ出されたものか、何をどこまで保証している文面なのか。発行元によって位置づけが異なるため、紙が付いているという事実ではなく、書かれている内容そのものを読みます。
- 共箱(作者の箱書きがある箱)
- たとう紙・二重箱・紐
- 識書・栞・由来を書いた紙
- 鑑定書・保証書のたぐい
- 購入時の画廊やデパートの紙札
箱が汚れていても、紐が切れていても、そのままお持ちください。本体だけをきれいにして箱を置いてこられると、確認の材料が半分になります。
素材と技法で時代を照らす
紙質、絹本、キャンバスの張り、絵具の種類。素材は、その作品が作られた時代を映します。時代と合わない素材が使われていれば、後年の制作である可能性を考えます。
保存状態は、良し悪しでは見ない
素材で時代の見当を付けたら、次は、その時代をどう越えてきたかを見ます。シミ、カビ、破れ、修復の跡。状態が良いほど評価が上がるのは確かですが、希少な作品であれば、多少の傷みは時代を経た証として受け止めます。ここは品物ごとに判断が変わる部分です。
スタッフのひとこと
「有名じゃないから、たぶん価値はないですよね」。そう先回りしておっしゃる方がいます。ただ、こちらは名前から入りません。紙を見て、絵具を見て、箱を読んで、それから名前を確かめます。順番が逆なんです。
掛軸と油絵では、見る場所が違う
ここまでの5つは、掛軸でも油絵でも同じように見ます。違うのは、どこを開いて確かめるかです。
掛軸は表具と本紙を分けて見る
掛軸は、周囲の布である表具と、絵が描かれた本紙を分けて確認します。表具の虫食いや破れは評価に響きますが、本紙のシミや折れは、時代物であれば自然な経年変化として扱うこともあります。表具替えの跡があるかどうかも見ています。
油絵はキャンバスの裏を必ず見る
油絵や版画をお預かりしたら、まず裏を返します。裏面には制作年代の書き込みや、購入した画廊のラベルが残っていることがあります。これが来歴をたどる糸口になります。額縁については、基本的に評価するのは作品本体です。ただし額装そのものに作りの良さがある場合は、あらためて確認します。
市場の動きは、時期で変わる
最後のひとつが、いまの市場での動きです。ここだけは、作品そのものの中にありません。「10年前に鑑定してもらったときは、こう言われたんですが」。そう教えていただくことがありますが、そのまま今日の話にはなりません。
同じ作者の作品でも、画題や大きさによって探されやすさが変わります。海外で名前が知られている作家は、国内だけを見ているときと評価の見え方が違ってきます。そして、その傾向は年単位で動きます。
ですから、以前どこかで聞いた金額が、いまも同じとは限りません。記事の上で相場をお示しできないのも、ここが理由です。写真を4枚お送りいただければ、いまの動きを踏まえてお答えします。
実際にお預かりした美術品
1点だけのご相談でも、見る手順は変わりません。ただ、数がまとまると時間のかけ方が変わります。他県の資産家の方から先代の絵画をご相談いただいたときは、邸宅で2日かけて150点ほどを確認し、本社に戻って提案書を作りました。思い入れのある作品を除いた100点ほどをお預かりしています。経緯と点数は、買取事例のページにまとめました。
- 東山魁夷の木版画集「京洛春秋 春夏三撰」。限定450部であることを、サインと捺印から確かめました
- カシニョールのリトグラフ「黒い帽子」。121/150という番号と直筆サインが入った額装品でした
- 棟方志功の版画。版画とは何かというところから書いた記録です
いずれも、こちらが名前を先に知っていたから成立したのではありません。裏を返し、番号を読み、紙を確かめる。その手順は、名前が分かっていてもいなくても同じです。
骨董品・古美術品の査定について
掛け軸・陶磁器・茶道具などの査定で見るポイントは、骨董品買取の専門サイトで詳しくご案内しています。ご相談・出張査定は無料です。
査定に出す前、触らないでいただきたいこと
読めない落款も、キャンバスの裏の画廊ラベルも、拭けば一緒に消えます。だから、触らずに持ってきてくださいとお願いしています。
どこまでなら触っていいのかは、美術品を売る前の“やりすぎNG”集に品目ごとに並べてあります。掃除を始める前に、一度目を通してみてください。
よくいただく質問
作者の名前が読めません。それでも見てもらえますか
そのままどうぞ。落款や署名が読み取れない状態でお預かりすることもあります。読み取る作業そのものが査定に含まれます。
模写だと言われたことがあります。持っていく意味はありますか
あります。工房で制作されたもの、古い時代の模写は、それ自体が確認の対象です。言われた内容も含めて、実物を拝見してから改めてご説明します。
写真を送るだけでも相談できますか
できます。全体、落款やサインの部分、裏面、箱書き。この4枚があると話が早くなります。うまく撮れなくても構いません。
その場で金額は分かりますか
掛軸を広げて落款がすぐ読めれば、その場で目安をお伝えします。読めない落款は、持ち帰って照合する時間をいただきます。何日かかりそうかは、その場でお伝えします。
分からないままで構わない
「この掛軸、本物でしょうか」に、記事の中でお答えすることはできません。ただ、その質問を持ったままお越しいただければ、何をどう見て、なぜそう考えたかまでご説明できます。
名前も年代も分からないまま、床の間から処分の山へ移されてしまう品があります。
掛軸は巻いたまま、油絵は額装のままで構いません。運ぶのが難しければ、全体と落款まわりの写真だけ先に送ってください。
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